所有権移転登記に必要な書類を徹底解説します。

こんにちは。
株式会社ホームリンク代表の吉田です。

今回は、所有権移転登記手続きの際に売主様にご準備いただく必要書類について、根拠法令を示しながら詳細に解説したいと思います。

⒈ 所有権移転登記とは

まず最初に所有権移転登記の根拠法令ですが、それは民法第177条の規定です。

民法第177条

不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。

不動産を購入すると自分のものになりますが、この不動産は自分のものだと他人に主張するには登記が必要だということです。つまり、もし登記をしなければ、第三者からこの不動産は私のものだと言われても何も文句が言えない(=自分のものだと主張できない)ので、所有権移転登記を行うということです。

また、所有権移転登記は基本的に、売主と買主が共同して行うものと規定(不動産登記法第60条)されています。

不動産登記法第60条

権利に関する登記の申請は、法令に別段の定めがある場合を除き、登記権利者及び登記義務者が共同してしなければならない。

ちなみに、不動産登記法では売主のことを登記義務者(不動産登記法第2条第1項第13号)、買主のことを登記権利者(不動産登記法第2条第1項第12号)と言います。

不動産登記法第2条第1項第13号

登記義務者 権利に関する登記をすることにより、登記上、直接に不利益を受ける登記名義人をいい、間接に不利益を受ける登記名義人を除く。

不動産登記法第2条第1項第12号

登記権利者 権利に関する登記をすることにより、登記上、直接に利益を受ける者をいい、間接に利益を受ける者を除く。

⒉ 所有権移転登記に必要な書類

それでは、所有権移転登記手続きにはどのような書類が必要になるか解説いたします。

所有権移転登記手続きの際に売主が準備する書類は以下のとおりです。

(1) 必ず準備する書類

  • 登記識別情報(登記済証)
  • 印鑑証明書
  • 実印
  • 本人確認書類

(2) 必要に応じて準備する書類(上記に追加される)

  • 住民票
  • 戸籍の附票
  • 住居表示実施証明書
  • 戸籍の記録事項証明書

(3) 司法書士が作成する書類

  • 登記原因証明情報
  • 代理権限証書(委任状)
  • 本人確認情報

(1) 必ず準備する書類

ここでは、不動産の所有権移転登記手続きの際に必ず準備していただく書類について解説いたします。

ア. 登記識別情報(登記済証)

登記識別情報とは、平成17年の不動産登記法の改正により登記済証(権利書)の代わりに新たに発行されるようになった書面で、登記済証と同様の効力を持っています。ただし、すべての不動産について登記識別情報が発行されているわけではないため、登記識別情報が発行されていない場合は従前の登記済証を提出して手続きを行うことができます。

登記識別情報については、不動産登記法第2条第1項第14号で定義されています。

不動産登記法第2条第1項第14号

登記識別情報 第二十二条本文の規定により登記名義人が登記を申請する場合において、当該登記名義人自らが当該登記を申請していることを確認するために用いられる符号その他の情報であって、登記名義人を識別することができるものをいう。

なお、登記識別情報の記載事項としては、不動産登記規則第61条や不動産登記事務取扱手続準則第37条第1項に規定されています。

不動産登記規則第61条

登記識別情報は、アラビア数字その他の符号の組合せにより、不動産及び登記名義人となった申請人ごとに定める。

不動産登記事務取扱手続準則第37条第1項

登記識別情報の通知は、登記識別情報のほか、次に掲げる事項を明らかにしてするものとする。
(1) 不動産所在事項及び不動産番号
(2) 申請の受付の年月日及び受付番号又は順位番号並びに規則第147条第2項の符号
(3) 登記の目的
(4) 登記名義人の氏名又は名称及び住所
(5) 当該登記識別情報その他の登記官の使用に係る電子計算機において登記名義人を識別するために必要な情報を表すバーコードその他これに類する符号

そして、所有権移転登記手続きに登記識別情報が必要だという根拠法令が不動産登記法第22条です。

不動産登記法第22条

登記権利者及び登記義務者が共同して権利に関する登記の申請をする場合その他登記名義人が政令で定める登記の申請をする場合には、申請人は、その申請情報と併せて登記義務者(政令で定める登記の申請にあっては、登記名義人。次条第一項、第二項及び第四項各号において同じ。)の登記識別情報を提供しなければならない。〜以下省略〜

イ. 印鑑証明書

次は、印鑑証明書です。印鑑証明書の根拠法令は不動産登記令第16条です。

不動産登記令第16条

申請人又はその代表者若しくは代理人は、法務省令で定める場合を除き、申請情報を記載した書面に記名押印しなければならない
2 前項の場合において、申請情報を記載した書面には、法務省令で定める場合を除き、同項の規定により記名押印した者(委任による代理人を除く。)の印鑑に関する証明書(住所地の市町村長(特別区の区長を含むものとし、地方自治法第二百五十二条の十九第一項の指定都市にあっては、市長又は区長若しくは総合区長とする。次条第一項において同じ。)又は登記官が作成するものに限る。以下同じ。)を添付しなければならない
3 前項の印鑑に関する証明書は、作成後三月以内のものでなければならない。
〜以下省略〜

印鑑証明書は、市区町村の役所や役場に登録された印鑑(実印)が本人のものであることを公的に証明する書類で、正式名称を「印鑑登録証明書」と言います。なお、印鑑証明書の有効期限は3ヶ月とよく言われますが、この根拠もきちんと不動産登記令に規定があります。

ウ. 実印

実印とは、市区町村の役所や役場で印鑑登録を行うことで、本人の印鑑であると公的に認められた印鑑のことです。実印で押印することによって、売主が間違いなく真の所有者であるということを確認し、詐欺などの犯罪を防止するという観点から実印が要求されます。また、実印と印鑑証明書をセットにすることで、書類の信憑性を高め、法務局の照合をスムーズに行うことができます。

実際の取引において、売主が実印と認識している印鑑が印鑑証明書の印影と合致しないという場合がごく稀にあります。この場合、不動産取引自体が頓挫してしまうため、事前にしっかりと確認しておいてください。また、そもそも印鑑登録をしていない(=実印を持っていない)または実印を紛失している、もしくはどれが実印か分からなくなっているというケースもありますので、早めに新規の印鑑登録や再登録を行っておくようお願いします。

エ. 本人確認書類

続いては売主の本人確認書類についてです。所有権移転登記手続きを行う際、司法書士によって売主の本人確認が行われます。司法書士は、司法書士行為規範や各都道府県の司法書士会会則等により、依頼者や代理人等に本人確認及び意思確認(依頼意思の確認)を行い、その旨を記録・保存することが義務付けられています。

司法書士行為規範第44条

司法書士は、不動産登記業務を受任した場合には、依頼者及びその代理人等が本人であること及びその意思の確認並びに目的物の確認等を通じて、実体上の権利関係を的確に把握しなければならない。
2 司法書士は、前項の確認を行った旨の記録を作成し、保管しなければならない。

福岡県司法書士会会則第91条の2

会員は、業務(相談業務を除く)を行うに際し、依頼者及びその代理人等の本人であることの確認並びに依頼の内容及び意思の確認を行い、本人であることの確認及び依頼された事務の内容に関する記録を書面または電磁的記録により作成しなければならない。
2 前項の記録は、事件の終了時から10年間保存しなければならない。
3 前各号について必要な事項は、理事会において定める。

司法書士行為規範や司法書士会会則では、本人であることの確認はもちろん、登記内容についての意思確認を行うことも重要な業務になっています。また、犯罪による収益の移転防止に関する法律第4条ではより具体的に本人確認事項の内容が規定されています。

犯収法第4条第1項第1号

特定事業者(第二条第二項第四十五号に掲げる特定事業者(第十二条において「弁護士等」という。)を除く。以下同じ。)は、顧客等との間で、別表の上欄に掲げる特定事業者の区分に応じそれぞれ同表の中欄に定める業務(以下「特定業務」という。)のうち同表の下欄に定める取引(次項第二号において「特定取引」といい、同項前段に規定する取引に該当するものを除く。)を行うに際しては、主務省令で定める方法により、当該顧客等について、次に掲げる事項の確認を行わなければならない。
一 本人特定事項(自然人にあっては氏名、住居(本邦内に住居を有しない外国人で政令で定めるものにあっては、主務省令で定める事項)及び生年月日をいい、法人にあっては名称及び本店又は主たる事務所の所在地をいう。以下同じ。)
~以下省略~

自然人とは個人のことで、法人に対して用いられる言葉です。その自然人について、本人特定事項(氏名、住所、生年月日)を確認しなければならないと規定されていますので、運転免許証やマイナンバーカードなどの身分証明書をもって確認します。

(2) 必要に応じて準備する書類

必ず準備する書類に加えて、場合によっては準備する必要がある書類について解説します。

ア. 住民票

登記事項証明書に記載された登記名義人の住所と、現在の住民票の住所が異なる場合、登記名義人の住所変更登記(表示変更登記)が必要です。

不動産登記法第25条第1項

登記官は、次に掲げる場合には、理由を付した決定で、登記の申請を却下しなければならない。
〜中略〜
7 申請情報の内容である登記義務者の氏名若しくは名称又は住所が登記記録と合致しないとき。

つまり、住所が異なる場合は登記の申請が却下されるので、住所変更登記を行わないといけないということです。住民票には現在の住所に加えて、そのひとつ前の住所が記載されています。住民票を確認すると、登記事項証明書の住所から現住所までの住所移転の経緯を証明することができるため、これをもって登記名義人の住所変更登記が可能となります。

イ. 戸籍の附票

登記事項証明書の住所から現住所までの住所移転が1回の場合には住民票だけで良いのですが、複数回の住所移転を伴う場合には住民票だけでは足りません。そこで必要なのが戸籍の附票です。戸籍の附票とは、戸籍に記載されている人の住所の履歴を記録した書類で、本籍地のある市区町村の役所や役場で取得します。住民票と戸籍の附票の情報を合わせて登記事項証明書の住所から現住所までの住所移転の経緯を証明します。

なお、戸籍の附票については各市町村によって取り扱いが異なるため、保存期間を過ぎているなどの理由から取得できないケースもあります。この場合は司法書士に相談です。また、本籍地が遠方で窓口に行けない場合、郵送によるやり取りで申請・取得を行う必要があります。そのため、予想外に時間がかかることがありますので、余裕を持って準備しておくようにしましょう。

ウ. 住居表示実施証明書

住居表示とは、例えば「古賀市駅東二丁目14番37号」のように○○番○○号で表示された住所のことです。住居表示が実施されていない区域では、例えば「古賀市○○町1920番地5」のように地番がそのまま住所になっています。このように、同じ市町村内でも地番表記のままの区域と住居表示が実施された区域が混在しています。

そして、以前の地番表記から住居表示に変更された区域で、登記事項証明書の住所が以前の地番表記のままになっている場合にも住所変更登記が必要となります。この場合、市区町村の役所や役場にて住居表示実施証明書を取得し、これをもって住所変更登記を行います。

エ. 戸籍の記録事項証明書

住所変更登記と同様に、登記事項証明書に記載された登記名義人の氏名が現在の氏名と異なる場合には、登記名義人の氏名変更登記が必要です。

氏名変更登記に必要な書類が戸籍の記録事項証明書で、電子化以前は戸籍謄本(抄本)と言われていた書類です。

(3) 司法書士が作成する書類

登記手続きを司法書士に依頼する場合、司法書士が作成した以下の書類にご署名・押印いただく必要があります。

ア. 登記原因証明情報

不動産登記法第61条

権利に関する登記を申請する場合には、申請人は、法令に別段の定めがある場合を除き、その申請情報と併せて登記原因を証する情報を提供しなければならない。

登記原因証明情報とは、登記の原因となった事実または法律行為とこれに基づき現に権利変動が生じたことを証する情報のことをいいます。基本的には売買契約書でもよいとされていますが、実際には司法書士が別途作成し、売買契約書の写しを添付するケースが多いと思います。

イ. 代理権限証書(委任状)

不動産登記令第7条

登記の申請をする場合には、次に掲げる情報をその申請情報と併せて登記所に提供しなければならない。
~中略~
二 代理人によって登記を申請するとき(法務省令で定める場合を除く。)は、当該代理人の権限を証する情報
~以下省略~

司法書士に登記を委任する場合に必要なのがこの代理権限証書(委任状)です。これも司法書士が作成しますので、売主様には署名・押印していただきます。

ウ. 本人確認情報

続いては本人確認情報について解説します。司法書士の本人確認と混同しそうですが、本人確認情報とは、所有権移転登記手続きに必要な書類のうち登記識別情報(登記済証)を紛失しているなどの理由から登記識別情報を提供できない場合、これに代わるものとして司法書士が作成するものです。こちらは不動産登記規則第72条に規定されています。

不動産登記規則第72条

法第二十三条第四項第一号の規定により登記官が資格者代理人から提供を受ける申請人が申請の権限を有する登記名義人であることを確認するために必要な情報(以下「本人確認情報」という。)は、次に掲げる事項を明らかにするものでなければならない。

長いので詳細な条文は省略しますが、この条文に続いて不動産登記規則第72条第2項第1号〜3号にて細かく規定されていますので以下にまとめます。

いずれか一以上の提示を求められるもの(第1号)

  • 運転免許証
  • 個人番号カード(マイナンバーカード)
  • 旅券等(パスポート等)
  • 在留カード
  • 特別永住者証明書
  • 運転経歴証明書

いずれか二以上の提示を求められるもの(第2号)

  • 資格確認書
    • 国民健康保険
    • 健康保険
    • 船員保険
    • 後期高齢者医療
    • 国家公務員共済組合
    • 地方公務員共済組合もしくは私立学校教職員共済制度
  • 介護保険の被保険者証
  • 健康保険日雇特例被保険者手帳
  • 基礎年金番号通知書
  • 児童扶養手当証書
  • 母子健康手帳
  • 身体障害者手帳
  • 精神障害者保健福祉手帳
  • 療育手帳
  • 戦傷病者手帳

官公庁から発行されたもの(第3号)

条文を読んだだけではどのような書類がこれに該当するのか分かりづらかったので調べてみたところ、

  • 印鑑証明書
  • 住民票
  • 国家資格の合格証
  • 国家資格の会員証・免許証
  • 営業許可証
  • 社員証

などがあるようです。ただし、最終的には登記官の判断になりますので、可能であれば顔写真付きのものを一部準備するのが良いと思います。

実際には、登記識別情報はまだ新しい制度のためこれを紛失している方はあまりいらっしゃいませんが、従前の登記済証を紛失している方は割といらっしゃいます。このような場合でも、司法書士が本人確認情報を作成することによって不動産売却の手続きが可能になる場合がありますので、今一度お探しいただいた上でどうしても見つからない場合には、お早めに当社までご相談ください。

⒊ まとめ

今回は、所有権移転登記手続きの際に売主様にご準備いただく必要書類について解説しました。

知識としてはもちろん知っていることなんですが、どうしてこんな書類が必要なのかという観点からよくよく調べてみると、当然ですが全部法律の規定に基づくものだということを知りました。

まだまだ掘り下げてみたいテーマがたくさんありますが、次回は所有権移転登記に必要な書類の買主様編をお送りしようと思います。

投稿者プロフィール

吉田 亮介
吉田 亮介代表取締役
株式会社ホームリンク代表。1978年1月生まれ。31歳で不動産業界に転職後、約14年間不動産売買仲介専門エージェントとして従事。その後、2023年12月に株式会社ホームリンクを設立し、代表取締役に就任。お客様との出会いやご縁を大切にする会社を目指しています。